私が中学生2年生の時の国語の教科書に、人間国宝でもある染織家志村ふくみさんについて書かれたエッセイがあり、なんだか深く感動したのを覚えています。美しい桜色の染まった着物は、桜の花を煮詰めて色を取り出したのではなく、桜の木の皮から、しかも桜が開花する直前の頃の山の桜の皮で染めると、上気したような、えもいわれぬ色が取り出せるのだ、という事でした。この現象を聞いた著者は、言葉の世界も同じではないかと感想を述べていました。

言葉である英語を考えるときも、この桜のイラストレーションは本質を表しているように思います。桜の花は全体の一部で、大切なのは目に見えない部分です。この目に見えない部分を意識し始めるのは、レベル的には英検1級であったり、TOEIC900点かなと思います。このようなテストのスコアを英語学習のゴールにしてしまう傾向がありますが、実は英検1級、TOEIC900点といのは、コミュニケーションのスタート地点です。何が言いたいかというと、可視化できる技術的な面は全体の10%くらいで、あとの90%は目に見えない部分で、それらがとても重要だという事です。

下の図をご覧ください。これは「iceberg (氷山)model」というシステム思考のモデルです

日本語にも「氷山の一角」という言葉がありますが、一角にあたる部分が技術的な部分で、テキストブックや暗記等で学べる部分です。大切なのは、水面下に隠れている見えない部分です。

言葉というのは、それを使う人々の文化や歴史、伝統、風習、社会、経済などの上に存在しています。そうした土台となる部分を無視して、言葉だけを習得することはできません。TOEIC満点でも、ネイティブのおしゃべりにまったくついていけなかった、というのは珍しくありません。

私自身、日本で必死で英語を勉強し、ラジオ英会話や、CNNなどほぼ聞き取れる自信があったにも関わらず、いざアメリカにいったものの、パーティーでのカジュアルなおしゃべりが理解できず、情けない気持ちになったものです。英語学習をする上で、可視化できない90%の部分を考慮していなかったので、「言葉」としての英語の実力の限界に、すぐにぶち当たりました。

では、何が必要かというと、氷山の上だけでなく、氷山の下をも見据えた学習です。残念ながら日本の教育は、この氷山の下の部分はほとんど無視されてきました。最近の小学校の英語の教科書も、国語の教科書?と一瞬思ってしまうくらい、「日本の価値観という色眼鏡から見た英語」という位置づけのようにも思えました。英語に限らず、「教養を身に着ける」という面は弱いように思います。国が違えば、文化も歴史も価値観も大きく異なります。だから、「ツール」としての英語だけを学んでも、コミュニケーションはうまくいかないのです。

英語上級者を目指す方は、氷山の上も下も同時に学べる「英語で学ぶ」アプローチを早い段階で取り入れていきましょう。技術的な事より、コンテンツに集中できるので、学習プロセスも楽しくなります。勉強というより娯楽になってくるので、無理なく継続できるようにもなります。

ではどうすれば、両方をいっぺんに学ぶ事ができるのでしょうか?

氷山の上の部分は、英語の参考書や単語帳などを使えば、ある程度は学ぶことができまが、下の部分はまったくといっていいほど学べませんよね・・・。話の背景となる重要な社会・文化的知識がないと、映画を見たり、洋書を読んだりしても、すぐにつまずいてしまいます。

ではどうすればいいのでしょうか。

実は、両方を一度に学べるおすすめの学習法があります。それは「多読多聴」です。多読多聴なら、英語を通して、英語圏の文化やアート、歴史など、さまざまな「教養」が身につきます。英語を楽しみながら、氷山の上と下を同時に学ぶことができるのです。当教室で利用している多読アプリは、アメリカの教材らしく、多文化・多様性に触れたお話もたくさん掲載されています。我が家の3年生になる長女は、リンカーン大統領や、ユダヤ教のお祭り「ハヌーカ」、イスラム教徒のラマダン等、世界の偉人やお祭り、歴史、自然、科学や習慣など、多読を通して広く浅く教養を身に着けています。それと同時にボキャブラリーやリーディング力、文法も学習できており、氷山の上と下を同時に効率よく、そして楽しく学べています。多読多聴は最強です!

英語しか学ばないのはもったいないので、ぜひ「英語で学ぶ」に移行し、言葉がもつ奥深い世界を楽しむと同時に、日本以外の価値観の世界での冒険を楽しんでみてはいかがでしょうか?