アークアカデミー通信9月号でも触れたのですが、23年度の全国学力テストの結果、中学英語の「話す」の正解率が12%というニュースに衝撃を受けた英語教育関係者は多いのではないでしょうか?小学校の4年間と中学での英語を合わせて6年以上も「スピーキング重視」の教育を受けたにも関わらず、結果が伴わなかった事実を重く受け止める必要があるし、子供にとっては貴重な時間、どこかに無駄がなかったのか真剣に検証する必要があると思います。

英語がなかなか身につかない理由の一つは、英語と日本語はまったく違う言語であるというのも大きな理由かと思います。発音、文法、スペリング、そして文化的な背景も全く異なる言語です。でもそれ以上に「学び方の効率が悪い」というのが最大の理由かと思います。

「スピーキング重視」といっても、大学共通テストにおいてスピーキングは25年度も導入は無理。中・高は大学入試試験が目的となっているので、テストに出ない課題には極力時間もエネルギーも使いたくないと思うのは当然のことかと思います。本屋さんに溢れるように並べられている中・高生向きの英語の参考書を見ても、スピーキングに特化した参考書はほぼ皆無です。また、スピーキングはインプットしたものをアウトプットするものなので、喋ろ喋ろと言われても、インプット量がないと歯が立ちません。

また、小学校英語と中学校英語への連携がうまくいっていないというのも効率の悪さの一つです。イメージとしては、畑(小学校)で育った苗をいきなりコンクリート(中学校)に移される、そんな感じです。土壌がまったく違います。

一方、英語圏は学者がデータを収集し、最も効率的な方法で言語を身につける手法を体系化し、「標準的な手法」として政府が広めています。特にイギリスは先進国だなと思います。なぜ英米はこの様な手法が発達しているかというと、移民国、植民地を抱えた国として多様な人間がいるため、言語を素早く身に着けさせることが国家運営に最も重要なことの一つであるからです。言葉がわからないとすべての活動に影響が出できます。

また英米は日本のような寺子屋がありませんでした。これはアメリカは植民地であり、イギリスは階級制度が強固な国家であるため、庶民が幅広く言葉を学べる仕組みがありませんでした。したがって中央政府が言語学習法を体系化し、広める必要がありました。その様な背景があって、学習法の科学的分析と体系化が進んでいったそうです。

言語習得が、国家の生き残りを左右する、そんな緊迫した背景があるので、効率的・効果的に体系化した手法が生まれざるをえない状況だったのかと思います。特に近年、英米の幼児や若年教育、移民向けの英語教育では、効率よく言葉を学ばせる方法が主流になっています。当教室で使用している多読アプリも、体系的に英語の文法や語彙力が伸ばせる仕組みになっていて、使えば使うほど、よく出来ているな~と感心する事がしばしばあります。また、言語習得のコアとしてフォニックス(読み方)を位置づけています。ちなみにイギリスのフォニックスの教材でとても優れているのが「Jolly Phonics」。世界140か国で使用されていますが、その特徴は多感覚アプローチ。子どもだけでなく、「人」には各自がもつ学びやすい方法があります。ジョリーフォニックスでは、一つの文字に対して「絵を見る」「お話を聞く」「声に出す」「動作をする」「書く」「触れる」「想像する」といったたくさんの方法を使うことで、子ども自身が自分の得意な部分を使って修得できるのです。「人種」の違いだけではなく、「性質」の違いも考慮した言語習得法なのです。イギリスにおいても1970年代くらいまでは、日本と同じように、読みや綴りを「丸暗記」に頼っていましたが、2000年代になりフォニックス(特にシンセティック・フォニックス)が体系化され、一気に識字率が向上しました。

フォニックスの次は頻出度の高い単語や文章を優先的に学ばせる方法です。日常生活の中でよく使う単語は決まっているので、それらの単語を早く身につけると効率が良いのです。日本の英語教育はボトムアップ式で、「簡単」から「難しい」へと学習していきます。仮定法のwould やcouldも中3で学びます。でも実際の生活では、これらの単語は頻繁に出てくるので、早い段階で読みやスペルを学びます。そちらの方が効率が圧倒的によいのです。また、最も重要な単語のグループが「動きの動詞」です。「とる(take)」「走る(run)」「食べる(eat)」「手に入れる(get)」などで、日常会話や作業で最も重要な単語を優先的に学びます。英語圏では、それらの単語をカードで楽しくゲームをやりながら読み書きを学びます。

英語を学ぶ子供達が最初に躓きやすいのが、実は読み書きです。そしてここで躓くと、その先の英語学習が苦痛になってしまいます。そうした周知の事実を考慮し、「なんとなく遊んで楽しかった」という活動ではなく、まずは音と綴りの関連性をしっかり小学生の間に習得

するという現実的な目標があれば、中学英語への土台、そして英語スピーキングへの自信にも繋がっていくのではないかなと思います。ただ、フォニックスを指導できる小学校の先生は非常に限られていて、民間の英会話教室等の頼らざるを得ない状況も事実で、教育格差のギャップを埋めていくにはどうしたらよいか、1人で紋々もんもんと考えている今日この頃です。